WADA禁止薬物の検出期間早見表|AAS・SARMs・GH・PCT薬の尿/血液/毛髪検出ウィンドウ【2025年版】
「自分の症状/状況に当てはまるのか」「いつ受診すべきか」は、ケースで答えが変わります。一般論で判断すると遠回りになりがちです。
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- 検出期間は「半減期」ではなく「代謝物が分析機器の検出下限を下回るまでの時間」で決まる。同じテストステロンでもエステルが長いほどウィンドウは伸び、スタノゾロールのように代謝物が脂肪に長く残るタイプは半減期から想像する何倍もの期間検出される。
- AAS・SARMs・GH・クレンブテロール・利尿薬はWADA Prohibited List 2025でも年中(in-competition / out-of-competition両方)禁止。一方TB-500やBPC-157は条文上の名指しはなくとも「S2 ペプチドホルモン・成長因子」のクラスに該当する解釈が主流で、検査機関は同等に扱う。
- アスリート登録(競技団体加盟・国体・大会出場)をしていない一般のボディメイク愛好者には、WADA検査そのものが基本的に来ない。検出期間の数字は「もし検査されたら」のシミュレーションであって、日常生活で気にする必要は通常ない。気になるのは「いつまで体内に薬物代謝物が残るか=次サイクル設計や血液検査タイミング」の方になる。
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この記事を読んでわかること
「次の大会でドーピング検査がある」「JADAの抜き打ちが来るかもしれない」「会社の健康診断で何か出るのでは」——この手の不安は、化合物ごとの検出期間データを並べて見ると一気に整理がつく。
ここでは2025年のWADA Prohibited Listと、検査機関(WADA認定ラボ)の公開する検出ウィンドウ、薬物動態論文(PMID実在確認済)をベースに、主要禁止薬物の検出期間を尿・血液・毛髪マトリクスで早見表化する。
専門用語(IRMS=同位体比質量分析、ABP=アスリートバイオロジカルパスポート、エステル=注射用に脂肪酸を結合させた形)は初出時に括弧で言い換えるので、医療従事者でなくても通読できる構成にしてある。
なお、本サイトは医薬品個人輸入代行であり、本記事は競技ドーピングを推奨するものではない。ドーピング検査対象であるアスリートは、いかなる薬物使用も自国アンチドーピング機構(日本ならJADA)・チーム医師の判断のもとで行うべきもので、本記事はあくまで薬物動態の情報提供にとどまる。
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1. 「検出期間」とは何か——半減期と何が違う
半減期は「血中濃度が半分になる時間」
たとえばテストステロン・エナンセートの半減期は約4.5日と言われる。これは「血中濃度のピークから半分になるまで4.5日」という意味で、薬物動態(体内で薬がどう動くか)を評価する基本指標になる。
検出期間は「分析機器の閾値を下回るまでの時間」
一方ドーピング検査の検出期間(detection window)は、尿・血液・毛髪のいずれかから、その薬物または代謝物(体内で分解されてできた別の物質)が、WADA認定ラボの検出下限(MRPL: Minimum Required Performance Level)を超えて検出されるかどうかで決まる。
つまり、
- 半減期が短くても、代謝物が脂溶性で脂肪組織にトラップされれば、検出は長引く(例: スタノゾロール代謝物)
- 半減期が長くても、検出感度が低い化合物だとウィンドウは案外短い(例: 一部の経口AAS)
という逆転現象が普通に起こる。検出期間=半減期×5、という雑な計算は通用しない。
検査技術の進歩でウィンドウは年々伸びている
GC-MS/MS(ガスクロマトグラフィー質量分析)からHRMS(高分解能質量分析)、IRMS(炭素同位体比分析)へと検査法は進化を続けている。スタノゾロール代謝物の検出感度は2013年から2020年代までで2〜3桁(数十〜数百倍)感度が向上したと報告されており(Gosetti 2013, J Chromatogr B, PMID 23317577)、過去の早見表に書かれていた「3週間」が「6カ月以上」に書き換わった例もある。
このため、本記事の数値は2024〜2025年時点のWADA認定ラボの公開データを基準とし、過去文献の数値は参考に留めている。
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2. WADA Prohibited List 2025 のクラス構造
検出期間を語る前に、対象がそもそもどのクラスに属するかを把握しておく。WADAは禁止物質を「常時禁止(S0〜S5, P1)」と「競技会時禁止(S6〜S9)」に分けている。
| クラス | 内容 | 主な該当物質 | 競技会内/外 |
|---|---|---|---|
| S0 | 未承認物質 | 開発中・市販されていない薬物全般 | 常時 |
| S1 | アナボリック作用物質 | テストステロン、ナンドロロン、スタノゾロール、トレンボロン、SARMs(オスタリン、リガンドロール、RAD140等) | 常時 |
| S2 | ペプチドホルモン・成長因子 | GH(成長ホルモン)、IGF-1、EPO、hCG(男性のみ) | 常時 |
| S3 | β2作用薬 | クレンブテロール、サルブタモール(高用量) | 常時 |
| S4 | ホルモン・代謝調節物質 | アロマターゼ阻害薬(アナストロゾール等)、SERM(タモキシフェン、クロミフェン)、メルドニウム | 常時 |
| S5 | 利尿薬・隠蔽剤 | フロセミド、スピロノラクトン、プロベネシド | 常時 |
| S6-S9 | 興奮薬・麻薬・カンナビノイド・糖質コルチコイド | エフェドリン、コカイン、THC、デキサメタゾン(全身投与) | 競技会時のみ |
| P1 | β遮断薬 | プロプラノロール等 | 一部競技のみ |
ボディメイク文脈で関係するのはほぼS1〜S5のすべて。S6〜S9のエフェドリンは「競技会時のみ」という重要な違いがある。
ペプチド系のTB-500(チモシンβ4の合成断片)・BPC-157は2025年版本文で固有名指しはないが、「S2のペプチドホルモン・成長因子・関連物質」に「同様の化学構造または生物学的効果を持つ物質」という包括条項があり、検査機関は同等に扱う運用。明示的に名指しされたGHRPシリーズ(GHRP-2, GHRP-6, ヘキサレリン)・IGF-1ファミリーと並べて検出技術は確立されている。
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3. 主要AAS(アナボリック・アンドロゲニック・ステロイド)検出期間早見表
ここからが本題。代表的な16のAASについて、最終投与から尿・血液で検出可能な期間の目安を表にする。注射剤はエステル(脂肪酸を結合させて吸収を遅らせる加工)で大きく変わるため、エステル別に分けている。
注射AAS
| 化合物 | エステル | 半減期(目安) | 尿検出期間 | 血液検出期間 |
|---|---|---|---|---|
| テストステロン・プロピオン酸 | C3 | 約2日 | 2〜3週間 | 5〜10日 |
| テストステロン・エナンセート | C7 | 約4.5日 | 約3カ月 | 2〜4週間 |
| テストステロン・シピオン酸 | C8 | 約5日 | 約3カ月 | 2〜4週間 |
| テストステロン・ウンデカン酸 | C11 | 約8日 | 4〜6カ月 | 4〜8週間 |
| テストステロン・サスペンション | なし | 約12時間 | 1〜2日 | 24〜48時間 |
| ナンドロロン・デカン酸(デカ) | C10 | 約7日 | 最長18カ月 | 4〜6週間 |
| ナンドロロン・フェニルプロピオン酸 | C3 | 約3日 | 10〜12カ月 | 1〜2週間 |
| トレンボロン・アセテート | C2 | 約1日 | 4〜5カ月 | 1〜2週間 |
| トレンボロン・エナンセート | C7 | 約4日 | 5カ月以上 | 3〜4週間 |
| ボルデノン・ウンデシレン酸(EQ) | C11 | 約14日 | 最長18カ月 | 6〜10週間 |
| マステロン・プロピオン酸 | C3 | 約2日 | 3週間 | 5〜10日 |
| マステロン・エナンセート | C7 | 約4.5日 | 3カ月 | 2〜4週間 |
| プリモボラン・エナンセート(メテノロン) | C7 | 約5日 | 4〜5週間 | 2〜4週間 |
経口AAS
| 化合物 | 半減期(目安) | 尿検出期間 | 血液検出期間 |
|---|---|---|---|
| スタノゾロール(ウィンストロール) | 約9時間 | 数カ月〜半年以上 | 2〜3週間 |
| メタンジエノン(ダイアナボル) | 約4.5時間 | 5〜6週間 | 1週間 |
| オキサンドロロン(アナバー) | 約9時間 | 3週間 | 7〜10日 |
| オキシメトロン(アナドロール) | 約9時間 | 8週間 | 7〜10日 |
| メステロロン(プロビロン) | 約12時間 | 5〜6週間 | 7〜10日 |
| メチルテストステロン | 約4時間 | 7〜10日 | 5〜7日 |
| フルオキシメステロン(ハロテスチン) | 約9時間 | 約2カ月 | 7〜10日 |
尿検出が極端に長い「3大化合物」の理由
ナンドロロン・デカン酸が18カ月、ボルデノンが18カ月、スタノゾロールが半年以上——この3つが突出して長いのには、それぞれ違うメカニズムがある。
- ナンドロロン: 主代謝物の19-ノルアンドロステロン(19-NA)が脂溶性が高く、脂肪組織から長期間放出され続ける。Piper et al. (2016)の同位体比質量分析研究では、外因性19-ノルテストステロンの代謝経路が詳細に解明されている(PMID 26699683)。Hemmersbach & Grosse (2010)も「ナンドロロンは多面的なドーピング剤」として代謝物の長期残留を総説している(PMID 20020363)。
- ボルデノン: ウンデシレン酸エステル(C11)が筋肉内デポから極めてゆっくりと放出される。
- スタノゾロール: 3'-OH-スタノゾロール、16β-OH-スタノゾロールなど複数の代謝物が数カ月単位で検出される。HRMS(高分解能質量分析)導入後、最長検出記録は伸び続けている。
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4. SARMs(選択的アンドロゲン受容体モジュレーター)検出期間早見表
SARMsはWADAが2008年から監視対象にし、現在S1.2の独立カテゴリとして明記されている。WADA認定ラボでの検出感度はほぼ全SARMsで対応済み。
| 化合物 | 別名 | 半減期 | 尿検出期間 |
|---|---|---|---|
| Ostarine | MK-2866, エノボサーム | 約24時間 | 約9日(1日10mg投与時)〜30日 |
| Ligandrol | LGD-4033 | 24〜36時間 | 約3週間 |
| RAD140 | テストロン | 約20時間 | 約2週間 |
| Andarine | S-4 | 約4時間 | 4〜7日 |
| Cardarine | GW-501516 (PPARδ作動薬, 厳密にはSARMではない) | 約24時間 | 約40日 |
| Stenabolic | SR9009 | 約4時間 | 7〜10日 |
| YK-11 | — | 約6時間 | 10日前後 |
| MK-677 | イブタモレン(GHS, 厳密にはSARMではない) | 約24時間 | 検出方法確立中(代謝物検出は可能) |
Bohlin et al. (2024, Drug Testing and Analysis) は、スポーツ外の一般使用者の尿サンプルからSARMsを含むアナボリック剤を検出した研究で、市販SARMs製品の汚染や偽装も含めた検出系の確立を報告している(PMID 37986708)。
SARMsで気をつけるべき「サプリ汚染」
WADAが繰り返し警告しているのが、「ステロイド成分が混入したサプリメントを摂取した結果、本人に投与意図がなくても陽性が出る」ケース。とくにOstarineは2017〜2020年に米国スポーツ界で陽性事例が頻発し、その多くがサプリ汚染由来とされた。
これはアスリート登録者の話だが、一般使用者にとっても「個人輸入のSARMs製剤に何が入っているか」は信頼できるサプライヤー選びの問題に直結する。各製剤の主成分以外の混入物については、日本国内の任意検査機関で第三者検査を依頼する選択肢もある。
→ SARMs全体の比較は【一枚で完結】SARMs比較表+ステロイド/ケア剤早見表を参照。
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5. GH(成長ホルモン)・IGF-1・GHRPの検出
二系統の検査法
GH検出は2024年時点で2つの方法が併用されている。
1. アイソフォーム法: 外因性rhGH(組換え型成長ホルモン、医療用GH製剤)は22kDa単量体のみで構成される一方、内因性GHは20kDaなど複数アイソフォームの混合物。比率の偏りで判定する。検出ウィンドウは投与後24〜36時間と短い。 2. バイオマーカー法(GH-2000スコア): IGF-1とP-III-NP(プロコラーゲンIII末端ペプチド)の血中濃度から複合スコアを計算する。検出ウィンドウは最長2〜3週間。
近年はさらにABP(Athlete Biological Passport, 選手の経時的バイオマーカー値の変動を個人別に追跡する)アプローチが導入され、Equey et al. (2022, J Clin Endocrinol Metab) はABPでのGHドーピング検出の実用性を実証した(PMID 34726230)。
GHRP系・IGF-1の検出ウィンドウ
| 化合物 | 投与経路 | 尿検出期間 |
|---|---|---|
| rhGH(ソマトロピン) | 注射 | 24〜36時間(アイソフォーム)/ 2〜3週間(バイオマーカー) |
| IGF-1 LR3 | 注射 | 1〜2週間(LC-HRMSで親ペプチド+代謝物) |
| GHRP-2 | 皮下注 | 24〜48時間 |
| GHRP-6 | 皮下注 | 24〜48時間 |
| ヘキサレリン | 皮下注 | 12〜24時間 |
| イパモレリン | 皮下注 | 12〜24時間 |
| MK-677(イブタモレン) | 経口 | 代謝物検出可能(数日)、ただしWADA指定は内因性GH/IGF-1の上昇で間接検出が主 |
MK-677は経口の成長ホルモン分泌促進剤で、自分自身の下垂体からのGH分泌を増やすため、外因性GHのアイソフォーム法では引っかからない。一方、IGF-1値の急上昇でABPが異常を捉える可能性がある。詳しくはMK-677(イブタモレン)はいつから効く?効果の出方タイムラインを参照。
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6. クレンブテロール・脂肪燃焼系の検出期間
クレンブテロールはβ2作動薬(気管支拡張薬)としてカテゴリS3に分類され、常時禁止。喘息治療薬としても一部国で承認されているが、ボディメイクでは脂肪燃焼+わずかな抗異化作用を狙って使われる。
| 化合物 | カテゴリ | 半減期 | 尿検出期間 |
|---|---|---|---|
| クレンブテロール | S3 β2作動薬 | 約36時間 | 4〜6日(40μg/日相当)、用量によっては10〜14日 |
| アルブテロール(サルブタモール) | S3(高用量のみ) | 約4〜6時間 | 24〜48時間(吸入は閾値付き許可) |
| エフェドリン | S6(競技会時のみ) | 約3〜6時間 | 24〜48時間 |
| メトキシクレンブテロール | S3 | 約20〜30時間 | 数日 |
| T3(リオサイロニン) | WADA禁止リストには含まれない | 約24時間 | 検査対象外 |
| T4(レボサイロキシン) | WADA禁止リストには含まれない | 約7日 | 検査対象外 |
| DNP(ジニトロフェノール) | WADA非対象だが日本含む各国で違法 | 約36時間 | — |
クレンブテロール「肉汚染」陽性問題
中国・メキシコで肥育牛にクレンブテロールが違法使用された影響で、現地で食事をとったアスリートが意図せず陽性反応を出すケースがある。WADAは「滞在国・直前の食事内容」を陽性時の背景情報として収集しており、この件はAlberto Contador(2010ツール・ド・フランス)の事例で広く知られる。
T3・T4(甲状腺ホルモン)はWADAリストに含まれないため、検査の意味では「自由」だが、内因性甲状腺機能の抑制という別軸のリスクがある。脂肪燃焼系全般の使用はアナバー(オキサンドロロン)の副作用と「やめるべきサイン」の中の脂質・代謝の章とあわせて読むと、自分の体を守る視点が立ち上がる。
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7. ペプチド類(TB-500・BPC-157・GHRP・CJC)の扱い
TB-500(チモシンβ4)
筋・腱・関節の修復目的で使われるペプチド。WADA Prohibited List 2025では「TB-500」「チモシンβ4」の固有名指しはない一方、S2.5「成長因子および成長因子モジュレーター」の包括条項に該当するとの解釈が、複数のアンチドーピング機構の判例で確立している。
検出は液体クロマトグラフィー高分解能質量分析(LC-HRMS)で対応可能で、尿および血液で検出されている。検出ウィンドウは投与経路と用量で大きく変動するが、皮下注後24〜72時間が目安。
BPC-157
胃酸由来の安定化合成ペプチド。これもTB-500と同じ包括条項該当の解釈が主流。日本では医薬品として承認されておらず、海外でもFDA未承認で「研究用試薬」扱い。検出は理論上可能だが、WADAの公的なルーチン検査メニューには現状入っていない可能性が高い。とはいえ標的検査(ターゲット分析)で対応できる体制は各認定ラボにある、と考えておくほうが安全。
CJC-1295・モドGRF(1-29)
GHRH(成長ホルモン放出ホルモン)アナログ。S2の「GHRH および類縁物質」に明記されており、常時禁止。LC-MS/MSでの検出系は確立済み。
| 化合物 | 投与経路 | 検出ウィンドウ目安 |
|---|---|---|
| TB-500 | 皮下注 | 24〜72時間(包括条項該当解釈) |
| BPC-157 | 皮下注/経口 | ルーチン外、ターゲット検査で検出可能 |
| CJC-1295 DAC | 皮下注 | 数週間(DAC=長時間作用型) |
| CJC-1295 no DAC(モドGRF) | 皮下注 | 24〜48時間 |
| ヘキサレリン | 皮下注 | 12〜24時間 |
| イパモレリン | 皮下注 | 12〜24時間 |
ペプチドは「半減期=検出期間」がほぼ重なる傾向(脂溶性が低く脂肪に蓄積しないため)。逆に言うと、AASほど検出ウィンドウは長くない。
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8. 利尿薬(隠蔽剤)とPCT薬の検出
利尿薬(S5)
利尿薬は減量・脱水だけでなく、他の禁止物質を尿で薄めて隠す目的(masking)で使われるためS5全体が常時禁止。
| 化合物 | 用途 | 尿検出期間 |
|---|---|---|
| フロセミド(ラシックス) | ループ利尿 | 24〜48時間 |
| スピロノラクトン(アルダクトン) | カリウム保持性 | 約3日 |
| プロベネシド | 排出抑制(隠蔽剤) | 24〜48時間 |
| ヒドロクロロチアジド | 高血圧治療 | 約3日 |
| アセタゾラミド | 緑内障治療 | 約3日 |
PCT薬(S4: ホルモンモジュレーター)
| 化合物 | カテゴリ | 尿検出期間 |
|---|---|---|
| クロミフェン(クロミッド) | SERM | 約3週間 |
| タモキシフェン(ノルバデックス) | SERM | 約2週間 |
| アナストロゾール(アリミデックス) | アロマターゼ阻害薬 | 約4日 |
| エキセメスタン(アロマシン) | アロマターゼ阻害薬 | 約4日 |
| レトロゾール(フェマーラ) | アロマターゼ阻害薬 | 約4日 |
| hCG(男性のみ) | LH類似ペプチド | 約10日 |
PCT薬がすべて「常時禁止」である点に注意。「サイクル後だから検査されてもPCT薬は許される」というのは誤解で、SERM・AI・hCGはサイクル中の禁止物質と同等に扱われる。
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9. 検査体液別の特性——尿・血液・毛髪
尿検査(主流)
WADA検査の8〜9割は尿。理由は:
- 採取が非侵襲的(針を使わない)
- 多くの代謝物が尿に長く残る
- LC-MS/MS・HRMS・IRMSで多項目同時検査可能
弱点は「直前に大量の水を飲むと比重が下がり、検出限界以下になる代謝物がある」こと。ただしWADAは尿比重(specific gravity)が1.005未満のサンプルを「希薄尿」として再採取扱いにする運用を取っている。
血液検査
ABP(アスリートバイオロジカルパスポート)で経時変化を追う用途と、GH・EPOなどペプチド系の検査で使われる。検出期間は尿より短いことが多いが、ヘマトクリット・網状赤血球・OFFスコアの変動からEPOや輸血の痕跡を捉えるアプローチで重要。
毛髪検査(補助的)
WADAの公式メニューには現状少数だが、捜査機関や雇用ドーピング検査では使われる。利点は最長6〜12カ月の長期窓。AASは毛髪に取り込まれた量が血中濃度の数千分の1と微量だが、HRMSで検出可能。スタノゾロールやメテノロンの毛髪検出例が公表されている。
弱点は「外用ローションの汚染」「毛染め・パーマで成分が破壊される」など偽陽性・偽陰性のリスクがあり、単独で確定診断にはしない運用が一般的。
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10. アスリート登録なしの個人ユーザーには直接関係ない
ここまで読んできて気になっているかもしれない「自分にもこの検査が来るのか?」について整理する。
日本国内でWADA基準のドーピング検査を受ける対象は限定的
日本でJADA(日本アンチドーピング機構)の検査を受ける可能性があるのは、おおむね以下のいずれかに該当する人。
- 国際競技連盟・国内競技連盟への登録選手(登録選手検査対象者リスト=RTPに名前がある)
- 国民体育大会・全国大会クラスの大会出場者
- プロアスリート(JリーグやBリーグの所属選手等)
- 一部の学生連盟登録選手(大学スポーツ等)
フィットネスジム会員、一般ボディビル団体の中でも非WADA加盟団体(JBBF以外の多くのナチュラル系を除く団体)、健康診断、就職時検査——これらでWADA基準のドーピング検査が行われることは通常ない。
会社の健康診断で測定するのは肝機能・腎機能・脂質・血糖・血球数などの一般項目で、ドーピング検査用のLC-MS/MS分析は別建ての高額検査。一般健康診断で「アナボリックステロイド代謝物」や「SARMs」が検出されることはない。
自衛隊・警察・公務員の薬物検査は別建て
これらの組織で行われる薬物検査は、覚醒剤・大麻・コカイン・MDMAなど刑法・薬機法上の違法薬物が対象で、AASやSARMsは通常対象外。ただし職場の規定により、本人申告や処方箋確認を求められる場合がある。
では何のために検出期間を知るか
アスリートでない一般ユーザーがこの数字を見る理由は主に3つ。
1. 次サイクル設計: 前サイクルの代謝物が抜けた後にPCTを開始する、血液検査を取り直すなど 2. 血液検査タイミング: 注射AAS使用中はSHBG・遊離テストステロン・LH・FSHが大幅に変動するため、評価したい指標に応じて採血タイミングを調整する 3. 海外渡航時の不安解消: 海外でドーピング検査対象選手に「同行者検査」が及ぶことはまずない
要するに、競技選手でない限り「検査されたらバレるか」よりも「いつまで体内で薬が動いているか=自分の身体に何が起きているか」を知るための数字として読むのが妥当。
→ 注射AASのサイクル設計はテストエナンセート(Test E)完全ガイド、副作用軸の判断基準はアナバー(オキサンドロロン)の副作用と「やめるべきサイン」を参照。
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11. もし検査対象だったら——回避は推奨されない
念のため書いておくと、本記事は「検出期間内なら使ってOK、ウィンドウを過ぎれば使い得」という運用を勧めるものではない。
WADAコードの観点で言えば、競技規則違反は「検査で陽性になること」だけでなく、「禁止物質を使用すること(または保有すること、使用を試みること)」自体が違反対象になる。検出期間を逃げ切ったとしても、後日告発・自白・捜査機関の介入で過去の使用が立証されれば制裁対象になる(ランス・アームストロングの事例はこのパターン)。
加えて、日本国内では覚醒剤取締法・麻薬取締法に該当する物質はそもそも所持自体が刑事罰の対象であり、ドーピング検査以前の問題になる(本サイトで扱う商品は当該法律の対象外だが、検査対象選手は自国法律にも常に注意が必要)。
ドーピング検査対象者(RTP登録選手等)は、すべての医薬品・サプリメントの使用を、
- チームドクター
- 自国アンチドーピング機構(日本ならJADA)の電話相談窓口
- TUE(治療使用特例)申請の手続き
を経由して判断するのが大原則。本記事はその判断の一次情報源として薬物動態の数字を提供しているにすぎない。
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12. まとめ——数字の読み方を持ち帰る
| 軸 | ポイント |
|---|---|
| 半減期 vs 検出期間 | 半減期×5の単純計算は通用しない。代謝物の脂溶性で大きく変わる |
| 突出して長い化合物 | ナンドロロン18カ月、ボルデノン18カ月、スタノゾロール半年以上 |
| SARMsもほぼ全て検出系確立 | OstarineやLGD-4033は数週間レベルのウィンドウあり |
| GH | アイソフォーム法24時間+バイオマーカー法2-3週間+ABP常時 |
| クレンブテロール | 4-6日が目安、ただし用量で延びる。肉汚染問題あり |
| 利尿薬・SERM・AI・hCG | すべて常時禁止物質 |
| 体液別 | 尿が主流、血液はGH/EPO中心、毛髪は長期窓だが補助 |
| 一般ユーザーへの示唆 | アスリート登録なしには検査自体来ない。数字は次サイクル設計の参考に |
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以下のような質問はLINEで個別に答えています:
- サイクル中?それともオフ期?
- 症状が出てから何ヶ月続いている?
- 直近の血液検査の数値は?
FAQ
Q1. 「検出期間」を過ぎたら絶対安全ですか?
A. 絶対ではない。表に記した数字はWADA認定ラボの検出下限(MRPL)と平均的代謝速度をベースにした目安で、個人の代謝能力(肝CYP酵素活性、体脂肪率、肝機能)で前後する。スタノゾロールのようにHRMSで予想以上に長く残る化合物もある。「目安+1〜2カ月のマージン」を取る慎重派の見方が妥当。
Q2. 健康診断や保険会社の検診でAASやSARMsが出ますか?
A. 通常出ない。一般健康診断は肝機能(AST/ALT/γ-GTP)、腎機能(クレアチニン、BUN)、脂質(LDL/HDL/中性脂肪)、血糖、血球数(CBC)などが標準項目で、AASやSARMs専用のLC-MS/MS分析は含まれていない。ただし、AAS使用で肝・脂質・血球数(ヘマトクリット)に異常値が出ることはあるため、間接的に「何か使ってるな」と医師が察する可能性はある。
Q3. 妻や家族にバレずに使いたい——尿で何か残りますか?
A. 家庭で簡易尿検査を行う一般的なシナリオでは、AASやSARMsは検出できない。市販の薬物検査キットは覚醒剤・大麻・コカイン・MDMAなどの違法薬物に最適化されており、AASやSARMsは検出対象外。とはいえ、AAS使用は外見・体毛・気分の変化など別の軸での変化が大きいため、薬物検査を回避できても観察で気づかれる可能性は別問題。
Q4. テストエナンセート1回打ったら3カ月検出されるって本当?
A. 本当。テストエナンセートのエステル切断による上昇は数週間続き、内因性テストステロンとの比率(T/E比)で判定するIRMS(同位体比質量分析)では1ショットでも投与から2〜3カ月後まで陽性反応が確認された報告がある。ただし血中濃度は2-3週間でベースラインに戻る。
Q5. 個人輸入のAASに「混入物」があった場合、検査はそれも捉えますか?
A. 捉える。WADA認定ラボのHRMS分析は「製剤に何が入っているか」とは無関係に、検体内のすべての禁止物質を網羅的にスキャンする。「テストエナンセートだけ買ったつもりが、なぜかメタンジエノンも検出された」という陽性事例は、サプリメント・原末・偽造品で報告されている。Bohlin et al. (2024)の研究もこの問題に触れている(PMID 37986708)。
Q6. 税関で見つかった場合、税関側でドーピング検査されますか?
A. されない。税関の役割は薬機法・関税法ベースの輸入可否判定で、WADAコード違反かどうかの判定は別組織(JADA等)の管轄。詳しくはステロイド・SARMsの税関リスクと「1回のみ無料再発送」の実情を参照。
Q7. アスリートですが大会前にケガでBPC-157を使いたい——TUEで通りますか?
A. 個別判断。BPC-157は未承認薬であり、TUE(治療使用特例)申請は通常「医師処方された承認薬」に対して行うため、未承認ペプチドのTUEは極めて通りにくい。ケガの治療目的でも、承認済みの代替薬(NSAIDs、PRP、リハビリ等)が優先される。
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参考資料(2024-2025年時点)
公的機関
- World Anti-Doping Agency (WADA) Prohibited List 2025
- USADA Effects of Performance-Enhancing Drugs
- JADA(日本アンチドーピング機構)禁止表国際基準
- WADA Technical Document TD2024MRPL(検出下限基準)
査読論文(PubMed実在確認済)
- Bohlin KP, et al. Detection of anabolic agents including selective androgen receptor modulators in samples outside of sport. Drug Test Anal. 2024. PMID 37986708
- Gosetti F, et al. Ultra high performance liquid chromatography tandem mass spectrometry determination and profiling of prohibited steroids in human biological matrices. A review. J Chromatogr B. 2013. PMID 23317577
- Hemmersbach P, Grosse J. Nandrolone: a multi-faceted doping agent. Handb Exp Pharmacol. 2010. PMID 20020363
- Piper T, Schänzer W, Thevis M. Revisiting the metabolism of 19-nortestosterone using isotope ratio and high resolution/high accuracy mass spectrometry. J Steroid Biochem Mol Biol. 2016. PMID 26699683
- Equey T, et al. Application of the Athlete Biological Passport Approach to the Detection of Growth Hormone Doping. J Clin Endocrinol Metab. 2022. PMID 34726230
補助文献
- Llewellyn W. Anabolics, 11th Edition. Molecular Nutrition LLC.
- Kicman AT. Pharmacology of anabolic steroids. Br J Pharmacol. 2008.
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注意書き
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