ブラックマーケットのテストステロンで人生が少し楽になった話
※本記事は、SBS News “Inside Australia’s underground steroid community”(2018)で紹介された複数のインタビュー内容をもとに再構成した意訳ストーリーです。
「今のところ後悔していない」オーストラリア地下ステユーザーの告白
― 低テストステロンと「ほどほどのドーピング」で今のところ満足している男 ―
「ただの疲れ」と言われ続けた20代
僕はオーストラリアに住む29歳。ステロイドを使い始めたのは、数年前に「テストステロンが低い」と分かったことがきっかけだった。
その頃の僕は、典型的な「なんとなく調子悪い」20代だった。
- 朝起きても疲れが取れていない
- 仕事中に集中力が続かない
- ジムに行っても、前みたいな伸びを感じない
- 性欲も昔より明らかに落ちている
「このまま30代になったら、もっとしんどくなるのかな」と不安になって、医者に行った。
血液検査の結果、テストステロン値は下限ギリギリ。医者は「一応正常範囲だし、年齢的にもそんなに心配いらないよ」と言うだけで、特に治療も提案されなかった。
僕は「そういうものか」と頭では納得しようとしつつ、心のどこかで「いや、これは普通じゃないだろ」と感じていた。
ジムの更衣室でささやかれる「もう一つの選択肢」
そんなモヤモヤを抱えたまま、僕は相変わらずジムに通っていた。
ある日、更衣室で聞こえてきた会話が、僕を別の世界に引き込むことになる。
「今回のサイクル、なかなかいい感じだわ」
「次はもうちょっと強いやつ試そうかな」
最初はプロテインかサプリの話かと思った。でも、耳を澄ますと明らかにそれ以上のものを話している。
あとでネットを調べて分かった。ステロイドが、僕が通っているような普通のジムでも当たり前に使われているということを。
そこから、YouTube とフォーラムの深い穴に落ちていった。
- 「安全な使い方」を解説する動画
- 「初心者向けサイクル」「副作用対策」を語る匿名ユーザー
- オーストラリアでの入手方法や、実際に使っている人の体験談
画面の向こうでは、僕と同じようにテストステロンが低くてしんどかったという男が、「これで人生が変わった」と笑っていた。
ブラックマーケットのテストステロン
最初に手を出したのは、テストステロンそのものだった。医者から処方されたわけじゃない。ブラックマーケットだ。
ここで細かい入手方法を書く気はない。ただ、はっきり言えるのは、思っていたよりずっと簡単だったということだ。
- 金を払う
- 連絡を取る
- 小さなバイアルとシリンジが手元に届く
初めて針を手に持ったとき、さすがに手が震えた。でも、いざ打ってしまうと、「これで俺のテストステロンが正常になる」と妙な安心感さえあった。
低用量で始めた僕の「ポジティブな変化」
僕は、自分なりに「低用量」「慎重」を心がけた。フォーラムで「医者寄りの知識がありそうな人」の投稿を読みあさり、「まずは軽く様子を見る」くらいの気持ちでスタートした。
正直に言うと、効果はかなり分かりやすかった。
- 朝のだるさが少しずつ軽くなる
- トレーニングの集中力が戻ってくる
- 性欲も「昔の自分」に近づいていく感覚
- ジムでのパンプ感や回復が、明らかに良くなった
鏡の中の自分は、いつの間にか「ちょっと鍛えてる普通の男」から、「あ、この人ジムちゃんと行ってるな」と一目で分かる体になっていた。
いわゆる派手なビルダー体型じゃない。でも肩周りや胸の厚みは、明らかに1段階上がった。
そして何より、
「ああ、自分の体って、まだここまで変われるんだ」
という感覚が、精神的にかなり大きかった。
今のところ、僕自身は目立った副作用を実感していない。それもあって、僕の中でステロイドは
「リスクは理解しつつ、上手く付き合えばメリットもあるもの」
という位置づけになっている。
友人たちのケース:16歳から始めたアンソニー
僕が出会ったユーザーの中には、もっと極端な例もいる。
アンソニーは、16歳のときにステロイドを始めた。
ナチュラルである程度まで筋肉はついていたが、「そこから先の伸びが足りない」と感じていたらしい。
- 最初はテストステロン
- すぐに「もっと強いもの」に手を出す
- 「重量も見た目も伸びる感覚」が快感になり、強さを上げ続ける
彼はこう言う。
「正直、少しは副作用もある。でも、針を刺すたびに『この一発でまた伸びる』って思うんだ。それがたまらないんだよ」
むくみやニキビ、気分の波。彼の話を聞いていると、「全然ノーダメージ」というわけではない。それでも本人は、今のところ満足しているように見える。
僕から見ると、16歳でそれを始めるのはかなり怖い。だけど、若さと勢いの前では、その怖さはあまり説得力を持たないのかもしれない。
“リサーチ命”のブライアンと、捕まったスタン
もう一人、印象的な男がいる。便宜上、ブライアンとしよう。
彼は2年間みっちり情報収集してからステロイドを始めた。フォーラムで医療系のバックグラウンドがありそうなユーザーを追いかけ、論文やガイドラインも読み込むタイプだ。
- 「クルーズ」と「ブラスト」と呼ばれるやり方で、ある程度の期間は軽めに続け、一時的に強める期間も作る
- サイクルのたびに血液検査を受け、数値をチェックする
それでも、精巣の縮小や射精までに時間がかかるといった副作用は出ている。
ブライアンは言う。
「副作用はゼロじゃない。でも、俺はそれを理解したうえでやってる。法律でヘロインと同じ扱いにされるのは現実的じゃないと思うね」
一方で、スタンという男は完全にビジネス側に振り切ったタイプだった。
- ステロイドを輸入・製造して販売
- 週に4,000豪ドルの利益を上げていた時期もある
- 18歳のときに筋肉異常症(いわゆるビゴレキシア)の診断を受け、それを裁判での弁護材料に使った
- 最終的に複数の有罪判決を受け、そこから使用をやめた
スタンの話は、「ハマりすぎると、法律という現実にぶつかる」という典型例だ。
医者の視点:「安全な量なんて存在しない」
こうしたユーザーたちの世界とは別に、エンドクリノロジスト(内分泌の専門医)たちは、まったく違う見方をしている。
ある医師は、「医師の処方なしにステロイドを使うことに安全なレベルはない」と断言する。
- 生殖機能の抑制
- 不妊リスク
- 肝臓へのダメージ
- 心臓や血管への負担
これらは、どれだけ「低用量」「慎重」を自称していても、リスクがゼロになることはないという。
しかもオーストラリアの一部の州では、ステロイドはヘロインやアンフェタミンと同じカテゴリーで扱われている。
ユーザー側からすれば、「さすがにヘロインと同列はおかしい」と感じるかもしれない。でも法律は、そこまでシンプルにはできていない。
「今のところ後悔していない」僕の本音
正直に言う。僕は、今のところステロイドを使ったことを後悔していない。
- 低テストステロンでしんどかった日々から抜け出せた
- 仕事やトレーニングへのモチベーションが戻った
- 身体が変わったことで、自信もある程度取り戻せた
これは事実だし、僕自身の実感だ。
ただ同時に、
- 長期的に見て心臓や肝臓がどうなるかは分からない
- 生殖機能やホルモンバランスに、どんなツケが回ってくるかも分からない
という不安も、完全には消えていない。
ジム仲間の中には、
- 10代から始めているアンソニーのような若者
- 医者顔負けの知識で自己管理しているブライアン
- ビジネスとしてステロイドにどっぷり浸かって捕まったスタン
みたいな、さまざまな生き方がある。
僕はその真ん中あたりで、「ほどほど」と自分に言い聞かせながら針を打っている。
読んでいるあなたへの正直なメッセージ
このストーリーを「ステの良さを紹介する美談」として読んでほしいわけじゃない。
言いたいのは、もっとシンプルだ。
- 地下コミュニティには、「今のところポジティブに感じているユーザー」も確かにいる
- でも、その人たちも、長期的なリスクや法律上のリスクを完全にはコントロールできていない
という現実だ。
もしあなたが今、「1回だけ」「軽くなら」「みんなやってるし」と考えているなら、
- 僕のように一時的に楽になるケースもある
- けれど、アンソニーやスタンのように、どこかで取り返しのつかないラインを踏み越える可能性もある
その両方を、頭の片隅に置いてほしい。
僕自身は、おそらくこのまま「少量で続ける」という選択をし続けるだろう。それが正しいかどうかは、まだ分からない。
だからこそ、少なくとも一つだけははっきり言える。
「迷っている段階なら、まだ打たない方がいい」
やらないで済むなら、その方がいい。それでも踏み出すと決めるなら、その先にあるものを、できる限り冷静に見てほしい。
これは、オーストラリアの地下ステロイドコミュニティの片隅で、今のところはポジティブだと感じている一人のユーザーからの、正直なメッセージだ。