AAS使用者のカーディオ戦略 心肺機能の維持

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リード

AAS(アナボリックステロイド、筋肉合成を促す合成男性ホルモン製剤の総称)を使い始めると、筋量とパワーは伸びるのに、階段を上っただけで息が切れる、ジムで2セット目から心拍が落ちない、サイクル中だけ妙に動悸がする、といった違和感に気づく人が少なくありません。重量は上がっているのに、有酸素能力は明らかに落ちている。これはサイクル中の心血管系に起きる、ある種の構造変化が背景にあると考えられています。

この記事では、AAS使用期に心肺機能を守るためのカーディオ(有酸素運動)戦略を整理します。なぜLISS(Low Intensity Steady State、低強度持続有酸素)が選ばれやすいのか、HIIT(High Intensity Interval Training、高強度インターバル)を控えめにする理由、週何回・何分が現実的な落としどころなのか、心拍数の管理方法までを順に解説します。

結論

AAS使用期のカーディオは、長時間・低強度のLISSを軸に、週3〜4回・1回30〜45分、最大心拍数の60〜70%帯を狙うのが、現状最も多くの利用者が採用している運用です。HIITは心筋への負荷が大きいため、サイクル中は頻度を落とすか中止する選択が一般的です。重要なのは「筋肥大の邪魔をしない範囲で心肺機能を維持すること」であり、減量目的の追い込みとは目的が違うと理解しておくことです。

AASと心血管系で起きていること

左室肥大という現象

AASの長期使用者を対象にした心エコー研究では、非使用のトレーニーと比べて左室壁が厚くなる傾向、いわゆる左室肥大が観察されています。スポーツ心臓と呼ばれる適応とは性質が異なり、収縮能・拡張能の指標が低下するケースが報告されています。心臓が「太く硬くなる」イメージで、ポンプとしての効率が落ちる方向に動きやすい、ということです。

血圧・脂質プロファイルの変動

経口AAS(17α-アルキル化された経口製剤)を中心に、HDLコレステロール(善玉)が下がりLDL(悪玉)が上がる脂質プロファイル変化が確認されています。また、赤血球数とヘマトクリット(血液中の赤血球容積比)が上昇し、血液粘度が上がります。これに収縮期血圧の上昇が重なると、心臓側の負担はさらに増えます。

何を守るためにカーディオするのか

サイクル中のカーディオは「痩せるため」ではなく「心臓を仕事に慣らしておくため」が主目的です。心筋に血液を回し、毛細血管網を維持し、安静時心拍数が極端に上がらないよう調整する。この目的を見失うと、追い込み型のHIITに走って逆効果になりがちです。

LISSが推奨される理由

心筋に過剰負荷をかけない

LISSは最大心拍数の60〜70%帯、会話ができる程度の強度で続ける有酸素です。心拍数を上げすぎず、左室にかかる圧負荷を抑えながら、ミトコンドリアと毛細血管の適応を引き出せます。AAS使用期で既に左室壁が厚くなりやすい状況において、「これ以上心筋を肥大させる方向の刺激は避けたい」という発想と相性が良いとされています。

筋肥大の邪魔をしにくい

低強度の有酸素はカタボリック(筋分解)方向のホルモン応答が比較的小さく、レジスタンストレーニング(筋トレ)で得た刺激を打ち消しにくいと考えられています。AAS使用期の主目的は筋量増加なので、有酸素で筋トレの回復を削ってしまっては本末転倒です。

続けやすい

トレッドミルの傾斜歩き、エアロバイクの軽負荷、楽なペースのクロストレーナー。退屈ではあるものの、息が上がりきらないので動画を見ながら消化できます。週3〜4回続けるなら、つらすぎないことが最大の武器です。

HIITは控えめに、が無難な理由

心筋への急峻な負荷

HIITは数十秒の全力と短い休息を繰り返す形式で、最大心拍数の90%超に何度も到達します。健常者であれば心血管系への好影響が多く報告される手法ですが、AAS使用期は前提条件が変わります。血圧・血液粘度・左室壁厚が普段より高い側にある状態で、繰り返し心拍を跳ね上げる行為は、心筋へのストレスが質的に異なります。

サイクル中に頻度を落とす運用

「HIITを完全禁止」とまでは言えませんが、サイクル中は週2回を週0〜1回に減らす、強度を落とす、セット数を減らすといった調整が現実的です。PCT(Post Cycle Therapy、サイクル後の回復療法)期や休薬期に戻ってからHIITの頻度を戻す、という時期分けで運用している人が多い印象です。

短時間で効率的、の落とし穴

「HIITなら20分で済むから時間効率が良い」というのは平時の話で、AAS使用期は時間効率より心筋保護を優先したい局面です。30〜45分のLISSの方が、結果的にトータルの心血管リスクは低く収まりやすい、という整理が無難でしょう。

週3〜4回・30〜45分という目安

なぜこの頻度なのか

週1〜2回では持久能力の維持効果が薄く、週5回以上は筋トレの回復を削るリスクが上がります。週3〜4回は「最低限の心肺刺激を切らさず、筋肥大のためのカロリー・回復リソースを残す」バランスとして、多くのサイクラーが落ち着く頻度帯です。

30〜45分の根拠

20分未満では脂質代謝・心血管適応の刺激が弱く、60分を超えると累積疲労とコルチゾール上昇が筋トレに干渉しやすくなります。30〜45分は、心臓と血管に「適度に働かせる」シグナルを入れつつ、筋肉の回復に響かせない中間値として扱われます。

筋トレとの配置

筋トレ直後に長時間の有酸素を入れると、筋タンパク合成のシグナルを薄める懸念があります。

  • 筋トレ日とは別日に独立して行う
  • 同日に行う場合は筋トレ後ではなく朝、または筋トレから6時間以上空ける
  • 強度の高い脚日の翌日に長いカーディオは入れない

このあたりが多くの実例で採用されている配置です。

心拍数の管理方法

最大心拍数の概算

最大心拍数は「220 − 年齢」で粗く見積もるのが定番です。30歳なら190、40歳なら180という具合です。LISSのターゲット帯はこの60〜70%なので、30歳なら114〜133bpm、40歳なら108〜126bpmが目安になります。

何で測るか

スマートウォッチや胸ベルト型の心拍計が手軽です。トレッドミル・エアロバイクのグリップセンサーは誤差が大きいので、長期で記録するなら腕時計型を1本持っておくと判断材料が増えます。

安静時心拍数を週次で記録する

朝起き抜けの安静時心拍数(RHR、Resting Heart Rate)を週1回でも記録しておくと、サイクル中の体調変化が見えやすくなります。

  • サイクル前のベースラインから10〜15bpm以上恒常的に上がっている
  • 同じ強度のカーディオで以前より息が上がる
  • カーディオ後の回復に時間がかかるようになった

こうした変化が続く場合、強度・頻度を下げる、サイクルの内容を見直す、医師の診察を受ける、といった対応の判断材料になります。

動悸・胸の違和感が出たら

カーディオ中・直後の動悸、胸の圧迫感、めまいは中断のサインです。強度を落として様子を見るのが基本ですが、繰り返す場合や安静時にも出る場合は、自己判断で続けず医療機関で心電図・心エコーを受けることが推奨されます。

サイクル前後でやっておくと差が出ること

サイクル前のベースライン取得

血圧計を1台用意し、サイクル前2週間の朝・夜の血圧と安静時心拍数を記録しておきます。健康診断のタイミングで脂質・血算・肝機能を押さえておくと、サイクル中の変化が「どの方向にどれだけ動いたか」で語れるようになります。

サイクル中のモニタリング

血圧は週2〜3回、同じ時間帯に。心拍数は毎日。体重と腹囲は週1回。これらの数値があると、カーディオの強度調整が「なんとなく」ではなく具体的になります。

PCT・休薬期の戻し方

サイクル後はテストステロン値が一時的に底になり、有酸素時の疲労感が強く出やすい時期です。LISSは続けたまま、HIITはPCT後半から少しずつ戻す、というのが穏当な戻し方です。

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FAQ

Q1. カーディオは筋肥大に悪影響ですか? A. 低〜中強度のLISSを週3〜4回・30〜45分の範囲で行うかぎり、筋肥大への悪影響は限定的とされています。問題が起きやすいのは、毎日60分以上の長時間カーディオや、筋トレ直後の高強度有酸素を併用するケースです。

Q2. サイクル中にマラソンや長距離レースに出ても大丈夫ですか? A. レースペースで走り続ける行為は、AAS使用期の心血管系プロファイルとの相性が良いとは言えません。少なくともサイクル中の競技参加は推奨しにくく、本気で走りたい時期はAASを使わない、という時期分けが現実的です。

Q3. 朝の空腹有酸素は効率が良いと聞きますが、AAS中もやって良いですか? A. 短時間(20〜30分)のLISSであれば取り入れている人が多い手法です。長時間化すると筋分解と疲労が累積するので、空腹時カーディオでも45分以内に収めるのが無難です。

Q4. HIITを完全に避ける必要はありますか? A. 完全禁止までは必要ありませんが、サイクル中は頻度・強度・継続時間のいずれかを下げる運用が一般的です。PCTを終えて回復した時期にHIITを戻す、という時期分けが扱いやすい選択です。

Q5. ヘマトクリットが高めと指摘されました。カーディオで下げられますか? A. カーディオ単独でヘマトクリットを大きく下げるのは難しく、水分摂取・献血・サイクル内容の見直しのほうが直接的です。ただし血液粘度が高い状態でのHIITは避けるべき局面なので、LISS中心に切り替える理由にはなります。最終的な判断は血液検査の数値と医師の助言を踏まえてください。

最後に

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