HMG vs HCG|LHアナログとFSH補充の機序的違い

HMG vs HCG|LHアナログとFSH補充の機序的違い

リード

PCT(ポストサイクルセラピー:AAS=アナボリックステロイドのサイクル後に体を回復させる工程)の文脈でよく出てくるのが HCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)です。一方で、不妊治療の話題を調べていくと HMG(ヒト閉経期ゴナドトロピン)という似た略号が登場し、「HCG と HMG は何が違うのか」「PCT では HMG も必要なのか」と混乱する人が少なくありません。

この2つは名前こそ似ていますが、体内で作用する受容体・補充するホルモンの種類・適応される目的が大きく異なります。本記事では HCG と HMG の機序的な違いを、ライディッヒ細胞とセルトリ細胞という精巣内の2種類の細胞レベルから整理し、PCT における立ち位置、不妊治療文脈との接点、そして HMG 入手の現実までを解説します。

結論

ざっくり言えば、HCG は LH(黄体形成ホルモン)に似た働きをする単一作用、HMG は LH 様作用と FSH(卵胞刺激ホルモン)様作用の両方を持つ複合作用です。HCG はライディッヒ細胞を刺激してテストステロン(T)の合成を取り戻し、HMG はそれに加えてセルトリ細胞を刺激して精子形成を回復させます。AAS の PCT で「視床下部-下垂体-性腺軸(HPTA)の眠りを覚ます」目的なら HCG で機序的にカバーできるケースが多く、HMG が前面に出るのは精子形成不全が併発している不妊治療文脈です。

HCG と HMG の概要

HCG とは何か

HCG はヒト絨毛性ゴナドトロピン(human Chorionic Gonadotropin)の略で、本来は妊娠時に胎盤から大量に分泌されるホルモンです。構造的に LH と非常に似たα鎖・β鎖を持っており、ライディッヒ細胞の LH 受容体に結合して LH と同じシグナルを引き起こします。半減期が長い(注射後の血中濃度が長時間維持される)ことから、外因性 LH アナログとして PCT や生殖補助医療で使われてきました。

HMG とは何か

HMG はヒト閉経期ゴナドトロピン(human Menopausal Gonadotropin)の略で、閉経後の女性の尿から精製される製剤です。閉経後はネガティブフィードバックが外れて下垂体から LH と FSH が大量に分泌されるため、尿中に両ホルモンが多く含まれます。これを精製した HMG 製剤は、LH 活性と FSH 活性を概ね 1:1 で含む混合製剤として臨床利用されてきました。後発のリコンビナント FSH(rFSH)製剤や rLH 製剤が登場してからは、HMG の役割は徐々に切り分けが進んでいます。

略号の整理

略号 正式名 役割
LH 黄体形成ホルモン ライディッヒ細胞を刺激し T 合成
FSH 卵胞刺激ホルモン セルトリ細胞を刺激し精子形成
HCG ヒト絨毛性ゴナドトロピン LH 類似のシグナルを長時間与える
HMG ヒト閉経期ゴナドトロピン LH 活性+FSH 活性の混合製剤
T テストステロン 男性主要アンドロゲン

ライディッヒ細胞とセルトリ細胞:精巣内の役割分担

精巣の中には機能の異なる2種類の細胞が共存しています。この役割分担を理解すると、HCG と HMG の使い分けがそのまま見えてきます。

ライディッヒ細胞は LH に反応して T を作る

精細管の外側の間質に分布するライディッヒ細胞は、LH 受容体を持っています。下垂体から分泌された LH がこの受容体に結合すると、コレステロールを出発材料としてプレグネノロン→プロゲステロン→アンドロステンジオン→テストステロンと進む合成経路が活性化し、T が産生されます。AAS サイクル中は外因性のアンドロゲンが視床下部・下垂体にネガティブフィードバックをかけて LH 分泌が抑制され、結果としてライディッヒ細胞も休眠状態に陥ります。

HCG はこのライディッヒ細胞の LH 受容体に直接結合し、LH の代わりにシグナルを与えます。サイクル後半や PCT 初期に HCG を入れると、ライディッヒ細胞が再び T を作り始めるため、内因性 T の底値が引き上がるという報告が複数の臨床研究で示されています。

セルトリ細胞は FSH に反応して精子を育てる

一方、精細管の内側を裏打ちするセルトリ細胞は FSH 受容体を持ち、精子形成(精原細胞から精子細胞への分化)を支える「乳母細胞」として機能します。FSH 刺激により、セルトリ細胞は ABP(アンドロゲン結合蛋白)を分泌して精細管内の局所 T 濃度を高め、精子形成に必要な微小環境を維持します。

ここが重要で、ライディッヒ細胞由来の T だけでは精子形成は完結しません。精細管内の高濃度 T を保つには、セルトリ細胞経由の支持が必要であり、そのセルトリ細胞を駆動するのは FSH です。HCG だけを長期に使い続けると、ライディッヒ細胞は元気でも FSH 経路が回復せず、精子形成が戻りにくい状態が残ることが知られています。

両輪が揃って初めて完全回復

PCT のゴールが単に「血中 T を戻す」ことなのか、「精子形成まで完全に戻す」ことなのかで、必要な刺激の種類が変わってきます。前者は LH 様刺激(HCG)で足ります。後者には FSH 様刺激も求められ、そこで HMG や rFSH が選択肢に上がります。

PCT における HCG と HMG の位置づけ

HCG:短期回復・サイクル中の精巣維持

PCT 用途で世界的に最も使われているゴナドトロピン製剤は HCG です。理由は3つあります。

1. 半減期が長く、注射頻度が週2-3回程度で済む(LH の半減期は数十分単位で実用に向かない) 2. 単一作用なので投与設計がシンプル 3. AAS によって抑制されているのは主に LH 経路であり、HCG での代替で十分というケースが多い

サイクル中の睾丸萎縮予防や PCT 初期の T 底引き上げを目的に、低-中用量(臨床研究では数百-数千 IU 単位週2回程度の範囲)で使う設計が一般的に解説されています。

HMG/FSH 追加:精子形成不全が残る層向け

問題は、長期間 AAS を使用したり高用量サイクルを繰り返したりして「精子形成までしっかり止まってしまった」ケースです。この層では、HCG 単独で T は戻っても精液検査の所見が改善せず、不妊治療外来に流れていくパターンが報告されています。

ここで FSH 補充が選択肢に入ります。HMG(LH+FSH 混合)あるいは rFSH(リコンビナント FSH 単独製剤)を HCG に追加することで、セルトリ細胞経由の精子形成サポートが回復し、精液所見の改善が報告された臨床例があります。AAS 後不妊に対する HCG + rFSH/HMG プロトコルは、生殖医療領域の論文でも検討されているテーマです。

「PCT に HMG を盛れば最強」ではない

ネット上で「HMG を盛れば HCG より強い」といった表現を見かけることがありますが、これは機序的に正確ではありません。HMG が HCG より優れているわけではなく、目的が違うのです。

  • T 回復だけで十分なら HCG で機序的に足りる
  • 精子形成回復まで踏み込みたいなら FSH 様作用が必要

T が戻っていない段階で FSH を入れても、精細管内の局所 T 濃度が確保されていないので、セルトリ細胞は十分に働けません。順序としては「まず LH 経路を立て直す(HCG)→ 精子形成不全が残れば FSH 経路を足す(HMG/rFSH)」が機序的に整合的です。

不妊治療文脈との接点

HMG はもともと女性側の排卵誘発剤として開発・普及した経緯があります。卵巣の卵胞は FSH で発育し、LH サージで排卵が誘発されるため、LH+FSH を持つ HMG は排卵誘発に都合のよい混合製剤でした。男性不妊への応用は、特発性低ゴナドトロピン性性腺機能低下症(下垂体由来で LH/FSH が出ない状態)に対する補充療法として確立されていきました。

AAS 関連の二次性性腺機能低下症(AAS によって下垂体抑制が長期化したケース)は、機序的にこの低ゴナドトロピン性性腺機能低下症と類似した状態と捉えられ、同じプロトコルが流用される形で文献に登場します。つまり HMG の男性用途は、もともと「不妊治療科の薬」であり、PCT 用途は応用領域という整理になります。

HMG 入手の現実

国内処方の枠は専門医に限定される

日本国内で HMG 製剤を処方できるのは、ほぼ生殖医療・不妊治療を扱う専門医に限られます。AAS 由来の二次性性腺機能低下症で受診したとしても、AAS 使用歴の自己申告に対して医師がどう対応するかは施設差が大きく、PCT 目的で HMG を入手するルートは現実的にかなり狭い状態です。

個人輸入の難しさ

HMG は HCG と比べると個人輸入代行市場での流通量も少なく、扱う代行業者・取扱ロットが限定されます。これは原料が「閉経後女性尿の精製物」で安定供給が技術的に難しいこと、リコンビナント FSH への置き換わりが進んでいることなどが背景にあります。一方の HCG は供給が比較的安定しており、PCT 用途の中心薬として国内外の代行市場で標準的に流通しています。

当店でのポジション

みんなのステロイドでは、PCT 用途で需要が大きく機序的にも中心となる HCG 5000IU を取扱いしています(価格は本記事執筆時点で ¥15,000)。HMG については現時点で取扱予定がありません。FSH 補充まで必要な状況(複数年の AAS 歴+精子形成不全が明らかなケースなど)は、不妊治療専門医による検査・処方が機序的にも安全的にも本筋となります。

どちらをどう考えるかの整理

簡単な意思決定フローとして以下が参考になります。

1. AAS サイクル後の T 回復が目的:HCG が中心薬 2. サイクル中の睾丸萎縮予防が目的:HCG が中心薬 3. PCT 後に精液検査をして所見不良が残り、子作りを考えている:不妊治療外来へ。HMG/rFSH を含めたプロトコルは医療機関で 4. 「とりあえず強いやつを盛りたい」:機序を理解していない可能性が高いので一度立ち止まる

機序を踏まえれば、PCT の主役は HCG で、HMG は「精子形成不全が残った場合の追加カード」という位置づけになります。

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FAQ

Q1. HCG と HMG は併用できますか? A. 機序的には HCG(LH 様)で T 経路を立てつつ HMG/rFSH(FSH 様)を足す併用プロトコルが、男性不妊治療領域で報告されています。ただし投与設計は専門医の管理下で行われており、PCT 自己流用は推奨されません。

Q2. HCG だけでは精子は戻らないのですか? A. 短期間・低用量 AAS 歴であれば、HCG とその後の内因性 LH/FSH 再分泌で精子形成も戻るケースが多いです。長期高用量歴で FSH 経路が深く止まったケースでは戻りにくく、その場合に FSH 補充が選択肢になります。

Q3. HMG と rFSH(リコンビナント FSH)はどう違いますか? A. HMG は閉経後女性尿由来で LH 活性と FSH 活性を含む混合製剤、rFSH は遺伝子組換えで作られた FSH 単一製剤です。FSH 活性のみを単離して使いたい現代的な不妊治療では rFSH が選ばれることが増えています。

Q4. PCT で HMG を使う AAS ユーザーは実際にいますか? A. 海外フォーラムなどでは見かけますが、入手難・コスト高・機序的に HCG で足りるケースが多いことから、主流とは言えません。PCT 用途として現実的に手に入りやすいのは HCG です。

Q5. HCG はどれくらいの期間使うものですか? A. プロトコルにより幅がありますが、PCT 初期の数週間に集中して使い、その後 SERM(選択的エストロゲン受容体モジュレーター)に引き継ぐ設計が一般的に解説されています。HCG の長期単独使用はライディッヒ細胞の脱感作・エストロゲン上昇のリスクが指摘されており、漫然と続ける薬ではありません。

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